私は歴史が好きでBS放送でたまにやってる歴史番組を見る。今週は井伊直弼を扱っていた。まさに幕末の動乱真っ盛りの時代である。
井伊直弼といえば桜田門外の変を真っ先に思い浮かぶ。
水戸藩の脱藩浪士たちによる暗殺事件だ。時代劇でもこのシーンは有名なシーンとして度々描かれてきた。
井伊直弼は開国論者であり、幕府内において圧倒的に多数派を占める攘夷論とは一線を画していた。
そしてアメリカとの通商条約を朝廷の勅許をもらうことなく締結するという賭けに出たのだった。
朝廷の勅許なしで条約を結ぶというのはサラリーマンの世界になぞらえると社長に無断で他社と提携するとか、契約を結ぶといったところだろう。
あり得ないというか、ガバナンスの崩壊であり、バレたら間違いなくクビを切られてもしょうがないくらいのレベルだと思う。
通説によれば、井伊直弼は朝廷に無断で条約を結ぶことの重大性はよく理解しており、全責任を全て自身が負ってもやるべきとし、条約締結を断行したことになっている。
これは日本人の琴線にうまく響く美談であり、井伊直弼は悲運の大政治家というイメージを作り上げた一因はこれにある。
が、番組によれば真実は少し異なっていたようで、実は井伊直弼は事の重大さをまったく理解しないままアメリカとの通商条約を締結したらしい。
その後の書簡で予想外の周りの反発に狼狽えている記録が新たに見つかったそうだ。
井伊直弼が独断で条約締結したかというとそうではなく、実はその裏には幕府の官僚がいて、井伊直弼をそうさせたというのである。
これが事実だとすると、実際は井伊直弼が大もの政治家というよりも単に官僚の操り人形に過ぎなかったという可能性が高い。
ただ、時勢が条約締結しか許さなかったという点は忘れてはいけないだろう。官僚も必死だったに違いない。アメリカの圧力を跳ね返しすほどの度胸は誰もなかったろうし、時代は帝国主義である。隣の中国では既に列強の植民地が始まっていたのだから。
テレビを見ていて面白いのはたまにこういう新しい歴史的な発見があることだ。なかなか見ごたえがあった。
幕末といえば維新の立役者である長州や薩摩にスポットライトが当たりがちだが、幕府、それも幕府の官僚という視点でみるとまた様々なドラマがあったことだろう。
歴史の面白さはここにある。
おわり