久々に定時で仕事を切り上げた私はすっかり日の落ちた丸の内のオフィス街を抜けて東京駅に向かっていた
ちょうどKITTEに差し掛かったところのビルの物陰にコート姿の若い女性が立っていた
彼女は携帯で話しながら泣いているようだった
「うん、うん、わかった うん、そうだね じゃあね」
携帯電話を切った彼女と私の視線が一瞬だけ交錯し、そして離れた
彼女の目は涙で濡れていた
東京駅に続く横断歩道で彼女は私のすぐ斜め横で信号が変わるのを待っていた
東京駅の灯りが彼女の頬につたった涙の痕を照らしていた
私は彼女に起きた悲しみに想いをはせてみた
そして私も少し悲しくなって小さなため息をひとつついた
昔大好きだったブルーハーツの歌詞がメロディーにのって頭をよぎった
置いてきな悲しいことは 銀行に預けてきな
けして泣いてはいけないよ 友達に心配かけるから
恋人のことなんだろ 詳しいことはしらないけど
冒険野郎の仲間だろう バーボンでおとぎ話をつくろう
「ネオンサイン 作詞作曲 甲本ヒロト」
信号が青に変わり、私たちは駅に向かって歩きだした
家路に帰る人の群れの中、彼女の後ろ姿を目でおいながら私は心のなかで彼女をそっと励ました
やがて彼女は雑踏の中に消え、そして私はまたひとりぼっちになった
おわり