連休中、伸びた髪を切ってもらいにいきつけの床屋にいってきた。
静岡に越してきてからずっとお世話になっている床屋さんで、とにかくお喋りが大好きなご主人が一人で店を細々と営んでいる。
いつもなら席についたとたんに喋りかけてくれるのだが、なぜか元気がない。
長い沈黙のあとぼそぼそと喋りだした。
ご主人の元気がないのには三つの理由があった。
まず一つ目。
ご自身の健康問題である。
ご主人の年齢は40代後半だが、肥満ぎみではある。ラーメンが大好き。
糖尿の気があって、医者から色々と食事制限を受けていて体重を落とすようにと指導されているようだが、ストレスでどか食いしてしまいむしろ体重は増えてしまったそうな。
糖尿以外にも足のむくみがひどいらしく、腎臓がやられているかもしれないとのことで、検査入院を医者からは勧められているそうだ。
個人事業主にとって健康は死活問題だ。店を閉めたら収入は無くなるし、再開しても客が戻って来てくれる保証はない。
二つ目。
大将の義理の弟さんが営む寿司屋が閉店したらしい。個人で営む小さな寿司屋で、私も昔はよく通ったのだが常連客のおっさん達がうざくなって足が遠のいて久しい。
店を閉めたと聞いて少し寂しかった。
理由を聞くとここしばらく店を開けても赤字が続いていたらしい。子供たちが独立したら店を閉めようと前々から考えていたそうだ。
店の経営がうまくいかなかった理由は色々あるに違いないが、回転寿司に客を奪われたことが大きかったとご本人は思っているそう。
確かに個人経営の寿司屋がスシローの原価に叶うはずはないだろう。
でも、私は理由はスシローのせいではないとみている。回転寿司が流行りだしたのはずっと前からだしね。
客層が常連客で固まってしまったことが最大の理由だったろうと私なんかは思う。
個人経営のお店にとって、常連客はありがたい存在である一方で新規の顧客開拓を阻む諸刃の剣だと言える。
常連客は寿司を注文せず、適当なおつまみと酒で長居するから質が悪い。それに周りの客に絡んでくるし、正直酔っぱらいに絡まれるのは迷惑だ。
それに常連客だって年を取る。いつまでも若い頃と同じように食えないし飲めない。落とすお金も減っていく。
寿司屋の大将の年齢は60過ぎ。仕事を探しているそうだが、まだ決まっていない。
長年個人事業主としてやってきて、いまさら誰かの下で働けるのだろうか?大将の屈託のない笑顔が思い出されて私も悲しかった。
でも、寿司屋の大将は偉い。腕一つで三人もの子供達を大学にまでやって立派に育てたんだから。跡継ぎはいなかったそうなので、このまま店を続けるモチベーションもなかったんだろう。仕方のないことだ。
最後。三つ目。
不幸というのは重なるもので、寿司屋の閉店が決まって75歳になるお母さんも体調を崩してしまって救急車で運ばれたんだとか。
幸い貧血が理由だと言っていたが、念のため一週間ほど検査入院中らしい。
このお母さんは働き者で寿司屋をよく手伝っていた。料理が上手で、一品料理が美味しかった。
大事でないことを祈るばかりである。
おわり